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週刊Neue Fahne

2023年12月18日号

パワーハラスメントを巡る論議は管理職に部下指導のあり方を再考させる契機

管理職の中にハラスメントに対する誤解が蔓延している。この誤解はパワーハラスメント防止を口実して部下指導を放棄につながっている。言うまでもなくハラスメントとは、人に対する「嫌がらせ」や「いじめ」などの迷惑行為である。属性や人格に関する言動などによって相手に不快感や不利益を与え、尊厳を傷つけることであり、決して許されるものではない。ハラスメントに対しては、2019年に国連の専門機関である国際労働機関(ILO)が、第108回総会において「仕事の世界における暴力とハラスメント」に関する条約案を採択し2021年6月25日に発効されている。
  因みに日本は未だに批准していないが今日では“ハラスメントは人権侵害”であるという考え方が世界の共通認識となっている。コンプライアンスが企業活動にとってもはや「所与の条件」である以上は、当然のことながら企業並びにそこで働く一人ひとりにとって、各種のハラスメントを許さないという立場性と組織的な対応が不可欠となっている。

  以上を踏まえたうえで、安易に巷に溢れている「こうした発言はパワーハラスメントになる」などの“べからず集”による「誤った自己流解釈」が、職場での日常業務行動における指導・指揮・指示・命令とハラスメントの関係に混乱を招いている。管理職は職場におけるハラスメント防止を“これをいってはいけない”“あれをいってはいけない”というある種の“言葉狩り”に矮小化してはならない。また、存在するはずもないにも関わらず「客観的な判断基準が欲しい」なども“ないものねだり”である。
  さらにパワーハラスメントの発生原因を行為者の“コミュニケーションスキルの乏しさ”に還元してはならない。コミュニケーション力の乏しさは二次的な理由に過ぎず、管理職が業務上で必要なことを部下に強制することはパワーハラスメントではない。あくまでも“業務上で必要のないこと”を強制することがパワーハラスメントなのである。この切り分けを明確にして管理職は、パワーハラスメントに対しての「誤った自己流解釈」を払拭しなければならない。

  職場において実際にパワーハラスメント問題が発生した場合には、厚生労働省のガイドラインを用いてケースごとに判断することになる。厚生労働省は「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」とし、以下の@〜Bの要素をすべて満たすものを職場のパワーハラスメントの概念と整理している。
@優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
A業務の適正な範囲を超えて行われること
B身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
また、職場のパワーハラスメントに当たりうるものとして「身体的侵害」「精神的侵害」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の6つの行為類型を示している。そこで、発生した事柄に対して6つの行為類型ごとにパワーハラスメントの3要素のすべてを満たしているか否かで業務指導とパワーハラスメントの有無を判断することになる。
  上司の部下への注意・指導・叱責がパワーハラスメントに該当するか否かは、第1に、注意・指導・叱責などが業務上の必要性に基づくものであるのか否か。第2に、注意・指導・叱責などに業務上の必要性が認められるとしても、これらの内容や対応が具体的状況のもとで相当な範囲のものといえるか否かがポイントとなる。従って、単に厳しく叱責することそれ自体でパワーハラスメントになるわけではない。

  厚生労働省の『職場におけるハラスメント関係指針』では業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合にはパワーハラスメントに該当せず、「業務の適正な範囲」を超える行為がパワーハラスメントに該当すると定義している。つまり“業務指導とパワーハラスメント”を区分している。一方で職場では常に上司による部下への注意・指導・叱責がパワーハラスメントに該当するのか否かは、「業務上の必要性」と「内容や対応が具体的状況のもとで相当な範囲のものといえるか」で判断が常に分かれる。このため、職場でのパワーハラスメントと“業務上の指導”との関係性の判断には常に“境界域”が付きまとうのは確かである。
  管理職にとってこの“境界域”の存在を厄介な存在と捉えるならば、部下指導もまた“厄介事”と捉えてしまうことになる。しかし、部下指導は管理職の果たさなければならない重要な職務であることを忘れてはならない。仮に部下指導が“厄介事”という認識であるならば、部下の成長に対して責任を持たないということでもある。そもそも管理職としての存在理由がないことになる。この意味で職場でのパワーハラスメントを巡る対処は管理職に対して改めて部下指導のあり方を再考させていく契機でもある。

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