
2025年11月10日号
管理職に求められる最も重要な自覚は、「経営権の分担行使者」であるという認識である。経営権とは、企業の方向性を定め、限られた経営資源を最も効果的に活用して目標を達成するための権限と責任を指す。これは経営層だけの専有物ではなく、すべての管理職が責任をもって共有し、協働して発揮すべきものである。経営権を一人で完結させることはできない。各管理職が自らの現場で判断し、行動することによって初めて、組織全体の成果が生まれる。
現場の管理職には、自部門のリーダーとして方針を理解し、決断し、実行に移す責任がある。プロジェクトの方向性を示し、リソースを最適に配分し、部下の育成を図ることも経営権の分担行使の一環である。しかし、「自分のチームだけが責任範囲だ」と考えてしまう管理職も少なくない。企業は部門の集合体ではなく、目的を共有する組織体である。部門の成功が会社全体の成果につながるという意識を持ち、常に全社的な視野で判断することが求められる。自部門最適だけを追う姿勢は、経営視点を欠いた“残念な管理職”の第一歩である。
忘れてはならないのが、現場の管理職は「すべての労働問題の当事者」であるという事実である。採用から育成、評価、配置、退職に至るまで、現場マネジメントのあらゆる局面に責任が発生する。部下によるハラスメント、メンタル不調、対人トラブル―これらはすべて現場マネジメントに起因する可能性がある。管理職には「知らなかった」「関係ない」という言い訳は通用しない。部下の問題は、マネジメントの問題そのものである。「自分でやったほうが早い」「昔のやり方で十分」「労務問題は管理部門の仕事」といった発想は、現場のリスクを増幅させる。
管理職は日常のコミュニケーションと観察を通じて、部下の変化に気づき、早期に対処する姿勢が求められる。労働法の理解も欠かせない。労働基準法は「従業員を守る法律」と誤解されがちだが、実際は「企業を規制する法律」である。企業が従業員を無制限に働かせないようにする“縛り”として存在している。つまり、法を理解し、適正に運用することこそが、組織を守る管理職の責務である。
部下の視点から見て信頼を失う“残念な管理職”には、いくつかの共通点がある。第一に「一貫性のなさ」である。発言と行動が一致せず、日によって言うことが変わる上司に人はついてこない。第二に「保身優先の姿勢」である。部下の失敗をかばわず責任を回避し、成功だけを自分の手柄にする行動は、瞬く間に信頼を失う。第三に「肩書に頼るリーダーシップ」である。権威や立場で人を動かそうとする態度は、部下の自律性を奪い、チームの活力を損なう。信頼を得るのは肩書ではなく、日々の行動と誠実さである。
経営者の視点から見ても、“登用が誤りだった”と評価される管理職には共通点がある。それは「向上心の欠如」である。役職に安住し、学ぶ意欲を失った管理職の姿勢は、確実に部下へ伝播する。さらに「経営的視点の欠如」である。変化の激しい時代においては、現場マネージャーにも戦略構想力が求められる。多様な意見を束ね、複数のシナリオを描き、スピーディーに意思決定を行う姿勢が必要だ。プレイヤー意識の延長に留まる管理職は、もはやマネージャーとは言えない。
管理職にとって重要なのは、肩書を誇ることではなく、その肩書に見合う「姿勢」と「覚悟」を持つことである。経営の一部を担う存在として、現場の課題に真摯に向き合い、部下の信頼を得る行動を積み重ねることが、組織を前進させる力となる。
管理職とは、命じる立場ではなく、導く立場である。組織の期待を背負う存在として、自らの言葉と行動で信頼を築き続けることが、“残念な管理職”と呼ばれないための第一歩である。
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