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週刊Neue Fahne

2026年05月18日号

中小・中堅企業に内包する管理職人材の課題-11-スキル・能力面が劣るが「自分は優秀」と錯覚

中小・中堅企業の管理職問題を見ていると、しばしば不思議な光景に出会う。部下の育成がうまくいかず、組織の生産性も高くない。それにもかかわらず、当の管理職本人は「自分は十分にやれている」「むしろ優秀なほうだ」と信じて疑わないのである。
  この自己評価と実力のギャップは、本人の性格だけで生じるものではない。むしろ、中小企業に特有の組織構造が、管理職に錯覚を与えている側面が大きい。
 そもそも、教えられた経験がない人は、教えることができない。人を育てる力は、自然に身につくものではない。自分自身が丁寧に育てられた経験を持ってはじめて、「どのように教えれば人が成長するのか」を理解できる。ところが、中小・中堅企業では、現在の管理職層の多くが若い頃に体系的な指導を受けていない。上司も忙しく、教育制度も整っていないため、「見て覚えろ」で仕事を覚えてきた人が少なくないのだ。

 こうした環境で育った者が管理職になっても、部下育成の具体的な方法を知らない。本人は「教えているつもり」でも、部下から見れば、断片的な指示や感覚的な助言にとどまっていることが多い。それでも経営陣は、「長年会社を支えてきたのだから、人を育てる力もあるはずだ」と期待を寄せる。しかし、優秀なプレイヤーであることと、優れたマネージャーであることはまったく別の能力である。
 また、「人に仕事がつく」組織特有の構造も、能力の不透明さに拍車をかける。中小企業では、大企業に比べて人事異動や配置転換が少ない。一つの部署に10年、20年と在籍する社員も珍しくない。本来、組織は「仕事があり、それに人がつく」べきである。ところが中小企業では、いつの間にか「人に合わせて仕事がつく」状態になりやすい。
 たとえば、経理担当者が長年同じ仕事を続けると、業務の進め方そのものがその人のやり方に最適化される。属人化が進み、「その人がいなければ回らない」と見なされるようになる。こうなると、本人の能力が高いから不可欠なのか、単に代替可能な仕組みがないだけなのかが見えなくなる。
 しかも、比較対象が社内に限られるため、社員は自分の実力を客観的に測る機会が少ない。その結果、「自分はそこそこできている」「自分は優秀だ」という内省なき認識が生まれやすくなる。

 この傾向は、管理職になると一層強くなる。中小企業では、管理職への昇進に厳格な選抜があるわけではなく、年齢や勤続年数を重ねれば自然に役職がつくことも多い。にもかかわらず、本人はあたかも難関試験を突破したかのような全能感を持ってしまう。
 さらに、一度管理職になると、降格や異動の可能性は低くなる。社長の前では従順でも、自部署に戻れば「自分の城」の主として振る舞う人も少なくない。部下が反発すれば、人事評価を下げたり、配置転換で事実上追い出したりする。
 不幸なことに、異動(または退職)した部下を見て、「自分の判断は正しかった」と思い込み、それが成功体験として記憶されてしまう。こうして、「部下を育てるよりも、従わせるほうが早い」という発想が定着し、部下育成への責任感はますます薄れていく。真に必要なのは、自分の実力を知る仕組みである。
 大企業の社員が相対的に謙虚であるのは、本人の資質が優れているからではなく、単に自分の限界を知る機会が多いからだ。頻繁な異動、社内競争、多角的な評価によって、自分の実力を客観的に認識せざるを得ない環境がある。

 中小企業では、同じ部署で長く働き、比較対象も少ないため、自己評価だけが膨らみやすい。実力が伴わなくても、「自分は優秀だ」という錯覚が生じやすい。この錯覚が最も深刻な形で表れるのが管理職層だ。本人は有能だと信じているが、教える力も育てる力も備わっていない。その結果、部下は育たず、組織の成長も止まってしまう。
 中小企業の競争力を高めるために必要なのは、「管理職の人数」を増やすことではない。管理職が自分の能力を客観視し、育成力を磨き続ける仕組みを整えることである。「自分は優秀だ」と思い込む管理職ほど、組織にとって危険な存在はない。管理職に必要なのは根拠なき自信ではなく、自らの限界を認める謙虚さである。

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