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週刊Neue Fahne

2026年09月14日号

地方中小企業の人材開発課題-4-「情報共有」による組織知の向上と属人化防止

地方の中小企業では、「あの顧客のことは○○さんしか知らない」「営業が知っている情報が製造に伝わっていない」「あの仕事は前任者のやり方でしかできない」といった光景が珍しくない。さらに、その担当者が異動したり退職したりすると、顧客との経緯や仕事上の判断基準まで一緒に消えてしまう。これは単なる「情報共有不足」ではない。個人が持っている情報や経験を組織の知識に変換できていない、すなわち「組織知が蓄積されない」という問題である。
  そもそも情報共有とは、データを相手に送ることではない。メールで資料を全員に配信して「共有した」と考えるのは、情報配布にすぎない。情報は、受け手が内容を理解し、疑問を持ち、質問し、意見を返し、仕事上の行動に結びつけて初めて組織の中で意味を持つ。したがって、情報共有の成否は「送ったか」ではなく、「レビューされたか」で判断すべきである。レビューとは、情報を受け取った側が内容を吟味し、確認し、意見や判断を返すことである。情報を発信する側には理解を確認する責任があり、受け取る側には何らかの反応を返す責任がある。この双方向性がなければ、情報は組織の中を通過しただけで、知識として残らない。

  重要になるのが、地方中小企業に根強いハイコンテクストなコミュニケーションからの転換である。「あの件だから分かるだろう」「いつものやり方でやっておいてくれ」「○○さんなら分かる」といった表現は、長年一緒に働いてきた者同士には通じても、新しい社員や他部門の社員には通じない。しかも、こうした暗黙の了解に依存する仕事は、担当者が変わった瞬間に機能不全を起こす。必要なのは、主語、目的、期限、判断基準、前提条件などを言語化するローコンテクストな仕事の進め方である。
  特に報告・連絡・相談は、単なる「ビジネスマナー」ではなく、組織の神経系統として位置づける必要がある。指示を受けた側は曖昧な点を推測せず、指示した本人に確認する。仕事が完了したら、直ちに指示した本人へ報告する。相談とは、まだ存在しない未来について複数の人間で考え、ゼロを一以上にしていく行為である。だからこそ、相談はメールの往復だけで完結させず、人と人との対話を重視する。多くの新しい発想は、異なる経験や視点がぶつかる「摩擦」から生まれるからである。

  情報共有の不在は「属人化」を生み出す。属人化とは、特定の仕事や顧客、判断、ノウハウが特定の個人に集中し、その人がいなければ仕事が回らない状態である。属人化が進むと、職場はタコつぼ化し、「誰が何をしているのか分からない」「前工程や後工程に関心がない」という状態になる。その結果、新人が孤立し、助け合いが生まれず、ミスが隠蔽され、妙な社内権力者まで生まれる。「自分しかできない仕事」が、その人の社内における地位を守る道具になってしまうからである。
「できる人」が何でも抱え込むことも属人化を助長する。「自分がやったほうが早い」という判断は、一時的には効率的に見える。しかし、その結果として部下は経験を積めず、仕事はその人から離れなくなる。これは育成の失敗であると同時に、組織としてのリスクでもある。組織マネジメントの基本は「人に仕事を与える」のではなく、「仕事に人を当てはめる」ことである。誰が担当しても一定の品質で仕事ができる状態をつくり、その上で人の能力を高めていく。属人化を放置することは、人材育成を個人の善意と経験に委ねることにほかならない。

  属人化を防ぐには、まず仕事そのものを見直す必要がある。仕事と作業を分け、前任者の趣味やこだわりで続いている作業、付加価値に結びつかない業務、過剰な社内サービスなどを整理する。そのうえで、誰でもできる仕事や、間違えると影響の大きい仕事からマニュアル化する。ただし、マニュアルは「教える側」が一方的に作ってはいけない。慣れた人ほど手順を省略し、注意点を無意識に飛ばすからである。実際に仕事を覚える側が、教える側に質問しながら自分で作成することで、暗黙知が形式知へ変換される。
  業務について「何人で、何時間かけ、どれだけのコストが発生し、    どの程度のミスが起きているのか」を数字で把握することも重要である。情報共有の目的は、単に情報を増やすことではない。個人が持つ経験や顧客情報、判断基準を組織の共有財産に変え、それを次の人が利用し、さらに新しい知識を加えていくことである。こうして初めて、個人の経験は「組織知」になる。人が辞めても仕事が消えない、人が替わっても組織が動く。そこまで仕組みをつくることが、人材開発の重要な役割となる。

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