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週刊Neue Fahne

2023年09月04日号

マネジメント行動の再検証-13-挑戦者に対し背後攻撃をしない安全を確保

 ここ数年日本の人事・人材開発・組織開発の領域では「心理的安全性」が流行している。一方でこの流行に対して「心理的安全性の罠」に陥るなとの警鐘もなされている。この両方の意味で日本の企業はこれまでの組織運営を見直すうえで「心理的安全性」が一つのキーワードになっているのかもしれない。
「心理的安全性」なる概念は組織環境の側面で問われるケースが多い。環境とはもちろん組織内の対人関係も含まれる。このため「心理的安全性」がいわゆる職場内でのパワーハラスメント問題とリンクして語られる場合も多い。しかし、提唱者であるエイミー・エドモンドソンは、心理的安全性にいて「対人関係においてリスクのある行動を取っても、“このチームなら馬鹿にされたり罰せられたりしない”と信じられる状態」 という概念としている。

 今日これほど「心理的安全性」という概念が企業組織に広がっているのは、現場マネジメント層のパワーハラスメントに対する過度な警戒心と無関係ではないと思われる。敢えて乱暴に表現するならば、部下に対しての指導が「ハラスメントとして訴えられたくない」との思いが、無媒介に“職場の心理的安全性が重要である”という美辞と結びついているといっても過言ではない。これは現場マネジメント層に部下に対する指導放棄を促す良き口実にさえなっている。
  繰り返しになるが「心理的安全性」とは、楽しくやさしい職場でもなければ、仲良くするチームでも、安心・安全な労働環境をつくることでもない。まして「温い職場組織」でもない。あくまでも「対人関係においてリスクのある行動を取っても、“このチームなら馬鹿にされたり罰せられたりしない”と信じられる状態」を作るということであり、組織開発の視点に立つならば、至極当然で当たり前のことに過ぎない。

  人間の意識は時代に規定されるものだ。日本経済の隆盛期を知らず「失われた30年」と形容される時代の中で成長してきた若者に向かって「俺たちが若い時には…」などという指導方法が通用するはずもない。このように指導された若者にしてみれば「それは貴方が生きてきた時代が良かったのでしょ」といわれるのが関の山である。しかし、この種の手法がいまだに現場マネジメント層で繰り返されているのも事実である。
  これは一重に現場マネジメント層の勉強不足、認識不足である。同時に“自分は頑張ってきた”というある種の思い込みに過ぎない。社会全体のパイが拡大している時代には、単に自分の属する企業組織の方針や上司の指示に従っているならば、相応の結果が出たということをあたかも“自分の成果である”と錯覚していたに過ぎない。

  社会全体が成長軌道にある時には得てして「リスクヘッジ」が先行するものである。何故ならば、それ相応の働きをしているならば、それなりの「成果」が得られることが経験値となるからである。同時に前例踏襲に陥ることにもなる“自分で思考せずに組織に従っていれば何とかなっていた時代”の働きでは、仮に長時間労働であろうが考える必要もないという意味で文字通り「温い組織」であったということだ。
  しかし、日本社会全体のパイが縮小し、「VUCAの時代」といわれる中での企業組織での働きは、自らの意思で挑戦することが鋭く求められている。一人ひとりが組織内でリスクを背負って挑戦する行動が求められる。当然、挑戦には失敗が常につきまとう。仮にリスクを背負って挑戦して失敗したとしても、その者が周りから「批判という名の背後攻撃を受けない」という安全が確保されていなければ、果敢に挑戦する風土が形成されない。心理的安全性とはこのような文脈で捉えていかなければ、単なる和気藹々とした緊張感のない職場組織になる。緊張が伴わない組織は市場という外部からの攻撃には耐えられない。

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