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週刊Neue Fahne

2026年06月22日号

中小・中堅企業に内包する管理職人材の課題-16-部下に嫌われる勇気を持てるか

 中小・中堅企業において、管理職という立場が誤解されている場面がある。本来、管理職が管理すべき対象は「人」そのものではなく、「人が成果を出せる職場環境」である。仕事の目的が共有されているか、必要な情報が適切に流通しているか、業務負荷に偏りはないか、挑戦や失敗が許容される風土があるか。こうした環境を整備することこそ管理職の本来の役割である。
 しかし、環境を守るためには、時として厳しい判断が求められる。ルールを守らない社員への指導、不公平な行動への是正、組織秩序を乱す言動への対応などである。ところが現実には、部下との摩擦を恐れ、嫌われることを避けようとする管理職が多い。注意すべき場面で注意せず、指導すべき場面で曖昧な態度を取る。その結果、真面目に努力している社員ほど不公平感を抱き、組織への信頼を失っていく。管理職に求められるのは部下から好かれることではない。職場環境を守り、組織の健全性を維持することである。嫌われたくないという感情を優先した瞬間に、管理職は自らの職責から一歩後退することになる。

 この問題をさらに深刻にしているのが、中小企業特有の閉鎖性である。多くの中小企業では外部との人材交流が少なく、他社の管理職や組織運営を知る機会が限られている。中途採用者が入社しても人数は少なく、定着しなければ知見も蓄積されない。その結果、社内だけの常識が絶対化されやすい。長年勤務し一定の成果を上げた管理職は、自分のやり方が正しいと信じ込みやすくなる。周囲から異論が出にくく、役職が上がるほど注意される機会も減るため、その傾向はさらに強まる。いわゆる「お山の大将」である。
 外の世界を知らないまま権限だけを持てば、自らの未熟さに気づく機会も失われる。そして最も危険なのは、能力不足そのものではなく、「自分は正しい」という根拠のない妙な確信である。人は自らの正しさを疑わなくなった瞬間に他者が見えなくなる。正論を振りかざして部下を追い詰める者もいれば、声の大きさで組織を支配する者もいる。一方で、部下を丁寧に育成しようとする管理職が組織内で浮いた存在になるケースすらある。本来評価されるべき人材が評価されず、管理職としての責任を果たさない者が発言力を持つ。この構造こそが中小企業の抱える深刻な課題なのである。

 さらに厄介なのは、「いい人でありたい」という欲求である。管理職になっても、自分を部下の代表者のように考え、仲間意識を優先する人がいる。部下からの支持や人気を失いたくないため、厳しい判断を避ける。ルール違反を見逃し、自らもルール違反に無頓着になる。そして成果を出さない社員にも曖昧な評価を与え、不満が出ないように全員へ配慮する。しかし、その優しさは組織にとって必ずしも善ではない。
 組織は理論や制度だけで動いているわけではないが、感情だけでも動かない。公平性や原理原則が守られているからこそ、人は安心して働けるのである。管理職が捨てるべきなのは人間としての優しさではない。「いい人と思われたい」という邪念である。管理職は部下に迎合する存在ではない。原理原則に基づき、公平な基準で判断し、その結果として不満を向けられることがあっても責任を引き受ける存在である。自らの判断を疑い続けながらも、必要な場面では毅然とした態度を取る。その覚悟を持てる人だけが管理職として信頼を得ることができる。

 人口減少が進み、人材確保がますます困難になった現在、多くの企業は採用によって問題を解決できる時代ではなくなった。これからは今いる人材を育て、活かし、定着させる組織づくりが競争力そのものになる。その中核を担うのが管理職である。だから経営者が管理職を評価する際に見るべきものは、「部下から好かれているか」ではない。問題から逃げていないか、原理原則を守れているか、組織全体の利益を考えて行動しているか、そして必要な場面で嫌われる覚悟を持っているかである。
 管理職は人気商売ではない。経営機能である。この本質を履き違えた瞬間から組織は弱体化を始める。もし経営者が「人望がある」「みんなと仲が良い」といった理由だけで管理職を評価し続ければ、その会社にはやがて迎合する管理職ばかりが残ることになる。そして最後に失われるのは競争力である。会社を潰すのは無能な管理職ではない。仲間意識を美徳と勘違いし、自らの責任から逃げ続ける管理職である。管理職に求められるのは人気ではない。信頼である。その信頼は迎合からは生まれない。原理原則を守り続ける姿勢と、必要な場面で責任を引き受ける覚悟の中から生まれる。

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